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【ウエディングSTORY】あの花のキオク

 

ひとつ、忘れられないことがある。

それは雨と風の吹くあの嵐の日。

まだ私たちが学生だったときのこと。

連日雨が続いて、お互いの部活の休みが珍しく合った日
デートの約束をした。

天気なんか関係なくって
本当に楽しみで、楽しみで仕方なくって。
前にお店で一目惚れしたワンピースに
一番形の綺麗なジャケット。

湿気が多いから普段より念入りに髪を巻いて
ちょっと高めのヒールのパンプスが濡れないように
慎重になりながら駅への道のりを歩いた。

そんな私の気持ちとは裏腹に、
約束の時刻を少し過ぎても
姿を見せない彼…。

なんで電話のひとつもくれないんだろう。
光らない画面から目を逸らして
水たまりばかり見つめていた時間は
ほんの十数分だったはずだけども、すごく長く感じていた。
ようやく現れたつま先は当然泥水で汚れていて
パンツの裾もまばらな水玉模様を描いている。

片手で掲げる小さな折り畳み傘では防ぎきれなかったであろう雨粒が
彼のシャツを色濃く濡らしていて

立ち止まってしばらく上下する肩が
どれだけ急いで走ってきたのかを物語っていた。
「ごめん!実は………」
水滴だらけの右手が差し出したのは
ビニールで簡単に包装された一輪の花。
容赦なく握りしめていたのであろうその花と
雨を吸った飾りのリボンはしおれていて
なんだかすごく気に入らなかった。

「それ、買ってたから遅れたの?」
「こんなことなら、時間通りに来てほしかったよ!」

わかってた。
その水滴まみれで真っ暗な画面の携帯じゃ、連絡できなかったこと。

私を待たせているのを悪いと思ってくれていたから
服が濡れるのも構わず一生懸命走ってきてくれたこと。
今日が付き合って1年目の記念日だったから
私を想って用意してくれた花だったこと。

ひどいことを言ってしまったと
すぐに後悔したけれども

ひたすら謝る彼に、私もなんだか引っこみがつかなくて

つい突き返してしまった。

あの花の色とその匂いを
私はずっと忘れられないでいる。

意地っ張りな私はそれからしばらくの間
彼と目を合わせてもすぐに逸らしたり、
口もきかなかったりしてしまったけど

優しい彼のおかげで仲直りができて
今日この日までずっと一緒に歩いてこられた。

わがままだった私も大人になるにつれて、
素直な気持ちをきちんと出せるようになって

彼にばっかり謝らせてしまうようなことは無くなったと、思う。
でもやっぱり、
あの花の1件だけは心に引っかかったまま…。

彼の純粋な想いに応えられなかった
あの気まずい一件を蒸し返す勇気もなかったし、

それに、彼は優しいからきっともう許してくれているか
忘れていると思う。
自分で自分にそんな言い訳をしつつ
街のお花屋さんを通り過ぎるたびに
あの花の姿を探してしまっているのだけれど。

でも、もしも、また彼からお花をもらうことがあったなら。
あんな風に断ってしまったから、きっと二度とないとは思うけども。

その時は彼の胸に飛び込んで、笑顔でお礼を伝えようと
ひそかに心に決めている。
あの日の私が言えなかった「ごめんね」と「ありがとう」の想いも込めて

彼に精一杯の感謝と愛を。
そんな日が来るかどうかなんて、わからないんだけどね。

 

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